2018年08月04日

元福井地裁裁判長・樋口英明さんへのロングインタビュー

あんまり新聞の記事をそのまま貼り付けるのは好きではありませんが、あの樋口裁判長のインタビューです。
少しでも多くの人に読んでもらいたいと思って貼り付けました。


(インタビュー)原発は危険、判決の信念 元福井地裁裁判長・樋口英明さん

福島の原発事故後では初めて、運転差し止めを命じた関西電力大飯原発3、4号機をめぐる2014年の福井地裁判決。しかし、控訴審で名古屋高裁金沢支部は7月、一審判決を取り消し、住民の請求を棄却する逆転判決をした。一審で裁判長を務め、昨年8月に退官した樋口英明さん(65)に、判決に込めた思いを聞いた。

 ――一審判決が、取り消されました。
 「私が一審判決で指摘した点について具体的に反論してくれ、こんなに安全だったのかと私を納得させてくれる判決なら、逆転判決であっても歓迎します。しかし、今回の控訴審判決の内容を見ると『新規制基準に従っているから心配ない』というもので、全く中身がない。不安は募るばかりです」
 ――日本の原発の現状は。
 「小さな船で太平洋にこぎ出している状況に等しいと思います。運がよければ助るかもしれませんが、そうでなければ日本全体が大変なことになります。一国を賭け事の対象とするようなことは許されるはずがありません」

 ――福島の原発事故が起きた時はどう思いましたか。
 「正直言って日本の原発があれほど弱いとは思っていませんでした。『止める、冷やす、閉じ込める』という原発の安全確保3原則のうち、『止める』ことができたので、大事故にはならないと思っていました。しかし、冷やすことができずに大事故になりました」
 ――その翌年に福井地裁に異動。間もなく大飯原発3、4号機の運転差し止め請求訴訟が起き、担当することになります。
 「裁判所の転勤サイクルは3〜4年です。原発訴訟には通常5年はかかるので、最初は判決まで自分で書くつもりはありませんでした。一方で、大飯原発が危険なら再稼働前に止めなければという気持ちもありました。判決が直ちに原発を止める効力がないと知っていても、裁判所の責任分担として、危険と思ったらなるべく早く判断を示すべきだと思いました」
 ――再稼働を認めぬ方向に心証が傾いたのはどの段階ですか。
 「過去10年間に4カ所の原発所在地で、原発の耐震設計の根幹となる基準地震動(想定する最大の揺れ)を超える地震が5回も発生したことを知った時ですね。原告の住民側は『想定を超える強い地震が起きるかもしれない』と主張し、被告の電力会社側は『原発の敷地の地下では700ガル(揺れの勢いを示す加速度の単位)を超える地震は起きない』と反論していた。争点は強い地震が来るか来ないかという点にあり、どちらも強い地震に原発が耐えられないことを前提に議論しているのです。そのこと自体が驚きでした」
 ――なぜ電力会社側は強い地震が来ないと主張したのでしょう。
 「地震予知というのは、地震の場所、時期、規模を予想することです。電力会社の主張は、『強い地震が来ないことを予知できる』と言っていることにほかなりません。わが国で地震の予知に成功したことは、一度もありません。比較的に予知しやすいとされていた東海地震も最近になって予知できないという結論になりました」
 「地震が来るという予知よりも、将来にわたり地震が来ないという予知の方が難しいのです。現に10年間で5回も失敗を繰り返しているわけです。将来の最大の揺れを予測する算式は、仮説に過ぎません。それを原発の耐震性の決定に用いることは許されません」
    ■     ■
 ――判決は「地震大国日本において、基準地震動を超える地震が大飯原発に到来しないというのは根拠のない楽観的見通しにしかすぎない」として運転差し止めを命じました。地震予知ができるようになるまでは、原発を動かしてはならないということですか。
 「そんなことは言っていません。原告住民が言っているように、国内でかつて観測された最大の地震である4022ガルを基準として設計するとか、現在の技術で対応可能な最大の地震を想定するとか、いろいろな方法があるはずです。なにしろ大飯原発の700ガルというのは、私が住んでいる家に対して住宅メーカーが保証している3400ガルに比べてもはるかに小さい値なんですよ。原発は私の家より地震に弱い ――「かような事態(福島原発事故)を招く具体的危険性が万が一でもあるのかが判断の対象とされるべき」という一文もあります。原発訴訟にはあまりないストレートな表現が、話題になりました。
 「高校生が読んでもわかるような判決にしようと考えて書きました。原発訴訟を高度な専門訴訟と考える人も多いかもしれませんが、地震の問題は、高校時代に習った知識でも十分理解できます。必要なのは良識と理性です」
 ――「豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失である」の文にも驚きました。
 「これを書かせたのは、自分で言うのもなんですが『愛国心』だと思っています。判決当時、私はネット上で『左翼裁判官』などと批判されましたが、本当の保守は原発に反対すべきだと思います」
    ■     ■
 ――裁判官になろうと思ったのはなぜですか。
 「最初は自由な職業というイメージのある弁護士を目指していました。しかし、司法修習時に出会った裁判官の話を聞いて、弁護士のように依頼者の意向を気にする必要もなく、自分の信念に基づいて仕事ができる裁判官の方が自分に合っていると思いました」
 ――15年4月1日付で福井地裁から名古屋家裁に異動します。「左遷ではないか」との臆測も流れましたが。
 「それは全くの間違いで、想定の範囲内の人事でした。裁判官の世界では、忙しい場所が花形職場です。都市部の家裁は、離婚に伴って親権者を決める審判などが多く、考え方によっては原発訴訟より困難な判断が求められます」
 ――異動の内示は、大飯原発の判決に続く、関西電力高浜原発3、4号機の運転差し止めの仮処分申請の審尋の最中でした。
 「4月1日までに自分で決定を出そうと思いました」
 ――裁判官忌避の申し立てなどがあり、仮処分の決定は4月14日にずれ込みます。異動後に『職務代行』で決定をしました。
 「私から職務代行を申し出たところ、名古屋高裁は即OKしてくれました。私がどのような決定をするのかはわかったうえで、職務代行を許可してくれた。これを見れば、裁判所組織は最高裁を頂点とした一枚岩で政権に迎合しているといった、単純な図式は間違いだとわかります」
 ――ただ、樋口さんの後任の裁判長を含め、高浜原発の決定に対する異議審を担当した裁判官は3人とも最高裁事務総局付きを経験した「エリート裁判官」。樋口さんが出した運転差し止めの仮処分を取り消しました「2人までは偶然で説明できますが、3人とも事務総局経験者というのは珍しいと思います。人事の意味はよくわかりませんが、何らかの示唆を受けて赴任した可能性はあると思います。ある裁判官が原発立地県の地裁に異動する際に、上司から『裁判官がこうした事件の判断に必要な高い専門技術性は持っていないことはわかっているだろうね』と言われた、という話を聞いたことがあります」
 ――「3・11」後、原発の運転差し止めを命じる判決、仮処分は樋口さんの2件を含め4件です。
 「少なすぎます。裁判官が原発の生(なま)の危険性に正面から向き合えば、差し止めの判断が出るはずです。裁判官教育の際に『裁判官は絶大な権限を与えられているので、その行使については謙虚かつ抑制的であれ』と教えられることが、必要以上に裁判官を萎縮させている面があると思います」
    ■     ■
 ――国のエネルギー政策に関しては、国民から選挙で選ばれた国会や内閣が決めるべきで、裁判所が決めるのはおかしいという意見もあります。
 「今回の控訴審判決も、『その当否を巡る判断は司法の役割を超えるものであり、立法府や行政府による政治的な判断に委ねられるべき事柄』と述べています。私は本来、行政の裁量権を重視する立場ですが、原発の危険性を顧みずに運転を認めるのは、裁量権の範囲をはるかに逸脱しています。そういう場合、司法が介入することもやむを得ません」
 ――昨年8月、34年間の裁判官生活を終えました。
 「自由に仕事ができた実感があります。裁判所の中でも部によって雰囲気が全く違います。裁判長の個性によって、自由にものが言える部とそうでない部があり、隣の部はつらそうだなあと思ってみていたこともあります。私の過ごした部はすべて自由でした。若い裁判官には、独立の気概を持て、と言いたい。先例に依拠しておけば間違いはないという誘惑に流されてほしくないですね」
 ――定年後は何を。
 「何もしていません。この1年間、大飯原発訴訟の控訴審の行方を見守っていました」(聞き手・山口栄二、磯村健太郎)
     *
 ひぐちひであき 1952年生まれ。83年判事補任官。大阪地裁判事、大阪高裁判事などを経て、2012〜15年福井地裁判事、17年定年退官。三重県出身。
(朝日新聞8月4日)
posted by maesimaのばあちゃん at 19:27| Comment(0) | 原発ゼロ上牧行動
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。